
+ STORY OF PATRASCHE +
+ ある大型犬の物語 +
哀しい犬のエピソードは世の中に溢れています。
あなたがやさしい気持ちで流す涙は自分のための涙ではなく
彼らのための真実の涙でありますように。

このニコニコ笑顔のかわいらしいグレート・ピレニーズは、捨て犬でした。
幼い頃に保護センターに保護され譲渡されましたが、譲渡された先でも虐待を受け、車に押し込められて生活させられるなどの扱いを受けていることが発覚し、すぐに助け出されました。
その後も引き受け先がなかなか見つかりませんでしたが、やっとある家族の一員として迎え入れられました。この時には、新しい家族のもとで彼の一生は穏やかにのんびりと流れていくものと思われました。
瞬く間に月日は流れ、若かった彼も年老いて自力では立ち上がることも出来なくなっていました。
ピレのような大型犬は、年と共に足腰が弱ってくると自分の大きなカラダを支えきれなくなり、そのまま寝たきりになることも多いのです。
遠い昔、彼を家族の一員として迎え入れてくれたダイスキな家族は、老犬を死ぬまで面倒見てくれるという「老犬ホーム」に預けることを考え始めました。
「私たちには仕事もあるし、寝たきりになって汚いし、とてもじゃないけれど面倒見きれないわ。かといって保護センターになんて連れて行けない。ひどすぎるわ。少し可哀想かもしれないけれど老犬ホームに預ける方がお互いのためね。彼も仲間がたくさんいてさみしくないのじゃないかしら?」

家族は年老いて寝たきりになったヨボヨボの彼を、老犬ホームという名の見知らぬ施設に預けることを決めました。
たとえ寝たきりになろうとダイスキな家族に囲まれながら、のんびり余生を過ごせるとなんの疑いもなく信じていた彼は、愛する家族にお金を払って捨てられてしまいました。
保護センターに連れて行かなかったからといって、山に捨てなかったからといって、彼にとっては同じことでした。
新しいお家に着いた彼は、遠い昔にあたたかなベッドを用意して待っていてくれたダイスキな家族の笑顔を思い出していました。
「すぐに迎えに来てね!」
彼の新しいお家、終の住処となる「老犬ホーム」はとてもさみしく辛い場所でした。
お水とゴハン、お散歩は1日1回。
老犬ホームの人たちはほんの少ししか世話をしてくれません。
喉がカラカラでお水が飲みた くて一生懸命あんあん泣いてみましたが、誰も来てくれません。嵐の夜、ごうごうと吹き荒れる雨風にたまらなく不安になりましたが、様子を見に来てもくれません。ここで人間の姿を見かけるのは1日たった2時間ほどでした。

毎日毎日、真夏の炎天下の中でもムリヤリ立たされてお散歩に行かされて、あとは屋根しかない檻の中で、ベニヤ板の上に寝かされるだけの日々。
ある日、老犬ホームのオーナーは彼に向ってこう言いました。
「お前たちは金になる。老犬だから世話なんてほんの少しでいいんだから。それで毎月金が入ってくるんだ。いい商売だろう?エサとちょっとした散歩をして、たまに頭を撫でてやればいいんだ。俺は老犬を抱えて困っているお前たちの飼主を助けてやってるんだからな!!」

彼はあっという間にボロボロのちぎれた毛布のようになっていきました。床ずれは骨が見えるほどになっていましたが、老犬ホームの人は柔らかい敷物の上には寝かせてくれませんでした。
真っ白だった彼は、蝿のたかる糞尿まみれの汚い茶色い犬になり、みんなの憧れのふかふかふわふわの白クマ犬ではなく、ただの茶色い大型犬になりました。
それでも彼はダイスキな家族がいつか迎えに来てくれることを信じて、ずっとずっと待っていました。
寝たきりの彼は懐かしいお家を探して歩き出すことも出来ません。
関わった人間に与えられた運命を受け入れることしか出来ません。
でもどんな状況に置かれていても、彼はいつも穏やかに笑っていて、赤ちゃんのようにあどけなく優しい瞳をもった素晴らしいグレート・ピレニーズでした。
彼はその後、この悲惨な老犬ホームから連れ出され、普通のお家に引き取られてたっぷりの愛を感じながらその生涯を閉じました。

こんな風に犬生を終えるコもいるということ。自分ももしかしたらこの飼主になりえるということ。
もっと悲惨な環境で過ごしているコたちにはまだマシな施設にもなりえますし、もっとひどいところがたくさんある、そんなところに比べればここは天国のようだ、と言う人たちもいます。実際この老犬ホームのオーナーはよくそう言っていました。でも最悪の環境と比べることになんの意味があるのでしょう。今ここに辛くさみしく、放っておかれている犬がいるのです。
今、老犬ホームをはじめ、こういった施設に預けられる犬はとても増えています。お金を払っているから飼い主としての責任を果たしていると考える人が多いようです。でも、お金を払おうが払わなかろうが捨てたことに変りはありません。
「君を今日から老犬ホームに預けるからね!幸せにしてもらうんだよ!たまには逢いに行くからね」
「ごめんね、ごめんね、引越し先では小型犬しか一緒に暮らせないの。今度は小さいコを迎えるわ。あなたの分まで可愛がるから…仕方がないのよ。大きいコはダメなの。本当にごめんね。」
言葉を持たない彼らに、これからの生活のことをどう説明すればわかってもらえるのでしょう?
犬側にたって考えてみると本当に残酷な場所だと思いませんか?
年老いた彼らに残された時間はほんの少しなのに…。
もしどうしてもそのような状況に陥ったときには、まず新しい家族を探してください。
お散歩中に逢う犬好きの普通の家庭で預かってもらえないか聞いてください。そこの家庭にお金を払って預かってもらってもいいと思います。老犬ホームやケージに入れられっぱなしの施設に預けられるよりも幸せなはずです。
そしてもしも預けたのならもう二度と逢いには行かないでください。彼らは迎えに来てくれたと思います。何度も何度も捨てられる、そんな想いをさせないでください。ダイスキな飼い主さんが帰った後の犬たちがどんな表情でどれだけ辛い想いでいるのか、考えたことはありますか?
彼の写真を見比べて見てください。
不安そうな表情から明るい自信に満ち溢れた笑顔へと表情が変わっています。

無条件でダイスキでいてくれる大切な大切な小さな命。
あなたの生涯でこれほど無条件に愛されることがあるでしょうか?
年をとって粗相をして汚れたり、自力で立ち上がれなくなったり、いろいろ手間をかけることが多くなります。でも心の中は若い頃と変りません。あなたと一緒にいたいと願っています。一緒に年を重ねてきたではありませんか。
彼らがころころと太ってケラケラとよく笑い、元気に遊びまわっていた頃、あなたたち家族がどれだけ可愛がってくれたのか、彼らはちゃんと覚えています。
産まれたばかりの仔犬はもちろん可愛いですが、老犬の穏やかでのんびりやさしい笑顔を知ってください。彼らは犬生の最後の時をあなたとずっと一緒に、ダイスキなあなたと共に過ごせると信じています。
「おかぁさん、どうしてかな、ぼく、うまく立つことができないよ…それに体中が痛くて仕方がないんだ」
どうかお願いです。
もうすこしだけ犬側にたって考えてみませんか?
最後に…
こんなに無垢な瞳で私だけを見つめてくれる犬たち。
彼らに出逢えたこと
少しでも同じ時を過ごせたことは奇跡のようなものです。
私はこの瞳に映る最後の人間でありたいと願っています。
もし今私がいなくなったら
年老いた彼らが私のいない世界で幸せを感じることが出来るのか。
ずっと、最後の瞬間まで
私の迎えを待ちわびて死んでいくことが果たして幸せなのか。
ただただ「生きている、生かされている」だけではないだろうか。
一番に私が望むもの、そして考えなくてはいけないこと、
それは彼らの幸せです。
不安など微塵もなく、愛されていると感じながら生きて欲しいのです。
そして愛されている自信たっぷりに生涯を終えて欲しいのです。
彼らの愛されている自信、記憶、旅立つ瞬間まで。
ただそれだけを願っています。
*すべての老犬ホームがこういった扱いをしているわけではありません。飼い主さんの言葉はフィクションです。
今、まさに保護センターに連れて行こうか、もう面倒見きれないからどこかに生涯預けようかと考えている方、飼い主さんが長期入院、または亡くなってしまって行き場のない犬の預け先を探している親類の方など、行き場のない犬を抱えている方がこのページに辿りつき、少しでも何かを感じてくださることを願っています。